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第62話 前より好きです

作者: 八月 猫
last update publish date: 2026-07-30 09:00:39

 昼休みを終えて会社に戻ると、午後のフロアは少しだけ慌ただしかった。

 電話の音。

 キーボードを叩く音。

 誰かが小走りで資料を運んでいる。

 私は自席に戻り、パソコンの画面を開いた。

 午前中に途中まで作っていた資料を確認する。

 さっきまで千尋と話していたことが、まだ胸の中に残っていた。

 ――かわいそうとは思ってない。

 ――今の藤崎、前より自分で歩いてる感じするから。

 自分で歩いている。

 そう見えるのだろうか。

 私にはまだ、そんな実感はなかった。

 別れたばかりで。

 まだ同じ家に住んでいて。

 これからどこで暮らすのかも決まっていない。

 悠斗と顔を合わせるたびに胸が痛む。

 寂しさもある。

 罪悪感もある。

 それでも、前より歩いているように見える。

 私はその言葉を、何度も頭の中で繰り返した。

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